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自己破産の事例(2)34才女性・エステサロンへの約70万円など債務総額350万円の方の自己破産

2015.10.06


34歳 女性 既婚・子1人
職業 アルバイト 給与月5万円
債務総額 350万円
債務が増えはじめてから自己破産に至るまでの期間 約5年間
債権者数 6社
債務増大の要因 交際相手のための音楽機器購入,家族の入院関連費用,引っ越し代,エステコース申込
結果 同時廃止、免責許可

今回は,弊事務所で書面作成を行った実際の自己破産の事例を紹介します。既婚の女性がエステ代などで約350万円の債務を負ったものの、ご主人には内密で手続を進め、簡便な同時廃止手続を経て免責許可決定が下りた事例です。(なお,事例は個人が特定できないよう,一部の事実を伏せて紹介しておりますのでご了承ください。)

■破産に至る経緯

今回の事例は,34才女性の自己破産です。既婚でお子さんが一人いらっしゃいます。交際相手のための音楽機器購入や,エステのコース申込などで借金が膨らんでしまい,返済ができなくなったというケースです。特に,結婚されているので,夫には内緒で手続をしたいというご希望がありました。

破産に至った経緯は以下の通りです。
まず,この方の仕事は衣料品の販売店での販売員でしたが,その販売店ではシーズンごとにその店の新作衣料品を店員が自費で購入し,それを着用して接客するよう命令されていたため,元々の給与が少なかったこともあり生活に余裕がなかったこと。そして,当時交際していた男性が音楽活動(バンド活動)をしており,そのバンド活動に使う音楽関連の機械(数十万円するもの)を代わりに購入していたこと,その男性がバンド活動に傾倒し,次第に生活費までこの方に依存するようになったこと。
そして,このような苦しい生活の中,家族が病気で入院してしまい,その関連費用数十万円を負担しなければならなくなった上,交際していた男性が暴力を振るうようになったため,男性と別れてそれまで暮らしていた男性のマンションを出ることになり(購入した音楽機器は「迷惑料」として男性に渡しました),その引っ越し費用(敷金礼金のほか,着のみ着のままで逃げ出したため最低限の家具なども購入する必要がありました)もかかったこと,そして,ストレスをまぎらわすためにエステサロンの体験コースを申し込み,そのまま流れで約70万円もの全身エステのコースを申し込んでしまったことでした。
その後この方は,知人の紹介で別の男性と交際をはじめ,結婚されました。同時に妊娠が判ったため衣料品の販売店を辞めて出産準備と育児に専念,お子さんが少し大きくなってからは拘束時間の短いアルバイトを始めましたが,以前より給与が大幅に減ってしまい,これ以上返済をしていけないと思い弊事務所にご相談を頂きました。

■本件の特徴と申立時の留意事項

まず,衣料品販売店の従業員の方が,定期的に自社ブランドの服を購入させられて生活が苦しくなるというケースは非常に多いです。一般に,このような販売員の方の給与は拘束時間に比べて低いことが多いので,何もなければ何とか生活していけても,何かちょっとした臨時支出があったり,ケガや病気で働けない時期があると,そこから借金が次第に増えてしまう,というのはよくあることです。
また,同居の交際相手の収入が十分でなく,その面倒を見ているうちに生活費が足りなくなると,このような場合通常相手には収入が無く相手本人の名義では借り入れもできないため,まがりなりにも収入がある同居人が,借り入れなどで二人分の生活費を用意しようとする,というのもよくある話です。
そして,このようにギリギリの生活状況にある中で,本人がケガや病気で働けなくなったり,もしくは親族の病気などで入院・治療費などが発生するなど,大きな収入減や臨時支出があると,家計は簡単に破たんし,驚くほど短期間に借金が増えてしまいます。
その意味で,この方の案件は,まさに典型的な自己破産案件と言えます。

他方,今回の特殊事情として,➀自分名義で購入した音楽機器を,結果的に無償で交際相手にあげてしまったこと,②生活に必要の無い全身エステのコースを申し込んで,債務を相当額増やしてしまったことが挙げられます。

まず,➀自分名義で購入した音楽機器を無償で交際相手にあげてしまったことは,本来であれば自分の財産であったものを,生活が苦しくなってから他人に無償で譲渡してしまったことになります。
これは,事情によっては「債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと」として,破産法上の「免責不許可事由」に該当する場合があります。
「免責不許可事由」に該当する事実があると,自己破産したとしても原則として免責が受けられません。
つまり,せっかく自己破産したのに,原則として借金がなくならないことになってしまいます。
これでは困りますので,今回は,裁判所に出す書面のうち,この人が破産に至った事情を記載する「陳述書」という書面で,この音楽機器の譲渡は相手の男性との交際をやめるにあたっての「迷惑料」としてのものであったこと,当時この方は相手の男性から暴力を受けており,ご本人の生活の安全のためにも至急この男性の下から離れる必要があったこと,別れる条件としてその男性が,音楽機器を置いていくよう強く求めたこと,当時はまだ借金の返済はなんとかできており,音楽機器を男性に譲ったとしても借金完済の見込みが十分あったことなどを裁判所に説明し,本件は免責不許可事由にあたらないことを説明しました。

次に,②のエステで債務を増やしてしまった点ですが,借金で苦しんでいる時にエステのコースを申し込むことはやはり「浪費」と言わざるを得ません。そして浪費があると,「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと」として,多くの場合,免責不許可事由にあたります。
もっとも,免責不許可事由があったとしても,浪費の金額や浪費をしてしまった事情によっては,「裁量免責」と言って,裁判官の裁量で,特に免責を許可してもらうことができる場合があります。
そこで本件では,この方がエステを申し込んでしまった事情を,具体的事実をあげて丁寧に陳述書に記載し,裁判官の理解を得ることに務めました。具体的には,当時この方が,同居人からの暴力や家族の病気入院などで精神的に追い詰められていたこと,そんなときにエステサロンの従業員から親切な対応をされ,「ここでエステを受けて心身をリフレッシュすれば人生が変わる」という,普通の精神状態であれば真に受けることのなさそうな売り文句に乗ってしまったという経緯を細かく書き,悪くとも裁判官の裁量での免責が受けられるような陳述書別紙を作成し,裁判所に提出しました。

なお,ご本人から,「家族には内密で手続をしてほしい」とのご希望があった点については,ご主人関連の書類としては,ご主人の給与明細数か月分と直近の源泉徴収票を提出するだけで事が足りましたので,本件では特段の問題は生じませんでした。

■本件の結果

以上の点に留意しつつ申立書を作成し,報酬のお積立が完了した翌月に,裁判所に自己破産の申し立てを行いました。
申立後,ご本人にしていただくことは,(これは裁判所により異なりますが)通常1~2回裁判所に足を運んでいただき,裁判官と15~30分程度話をしていただくだけです。
今回も,ご本人に2回,裁判所に足を運んでいただきました。裁判官からは,申立書記載の事項に間違いはないか,また,今後どのようにして生活を立て直していくかといったことを質問されましたが,これについてはあらかじめ弊事務所との間で,どのようなことを裁判官から質問されるか,それにどう答えればよいかを打ち合わせさせて頂いていましたので,全く問題なく面談は終了しました。(もっとも,裁判官に対しては,「ウソは絶対につかない」「聞かれたことにはっきり答える」という2点を意識して頂ければ,問題になることはありません。もし,ご自身で破産申立をしようとしている方がいらっしゃいましたら,この2点を意識して,裁判官との面談に臨んでいただければと思います。)

最終的にこの方の案件は,同時廃止(破産手続のうちでも,一番費用と時間がかからない手続)で手続が終了し,無事免責許可が下りました。また,ご主人にも手続のことを知られることはありませんでした。

本件は,既婚者の方が,ご家族に知られずに手続をしたいというケースの典型的な事例の一つです。もし,既婚者の方で多額の借金に悩んでおられる方がいらっしゃいましたら,本事例を参考にしていただければと思います。


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