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自己破産の事例(1)自己破産は夫に内緒でできるのか?

2015.06.16


みなさんこんにちは。今回は、弊事務所にご依頼いただいた自己破産の事例の中から、「夫に内緒で借金問題を解決したい」という主婦の方からのご相談について、どのような形で解決に至ったかをご紹介します。

主婦の方で、ご主人に内緒の借金を抱えてしまい悩んでおられる方は、実はとても多いです。特に主婦の方の場合、「借金のことを夫には知られてしまったら離婚されるかもしれない…」という恐れから、自分だけでなんとかしようと考えているうちに借金が膨らんでしまい、どうしようもなくなってしまうというケースも少なくありません。

しかしそのような場合でも、専門家に相談して適切な措置をとることで、ご主人に知られることなく借金問題を解決できる場合があります。
本記事が、同じようなお悩みをお持ちの方のご参考になれば幸いです。

■最初の相談電話~夫に秘密にしている借金が返せなくなった…。

ある日、弊事務所に借金問題についてのご相談のお電話がかかってきました。お電話の内容は、「生活費が足りず、今月分のカードの支払ができなくなってしまいました。このままでは夫に借金のことがバレて離婚されてしまう。子供もいて、もう自分ではどうしたらいいのか判りません…」というものでした。

このような場合、弊事務所では、まず相談者の方の現在の状況を伺います。一口に「カードの支払ができなくなった」と言っても、その方が、カード会社何社くらいから合計いくらくらい債務があるか、カード会社以外に債務はないか、仮に返済を続けていくとしたら、返済に充てられる予算は月々いくらくらいか、そもそもカード利用が増えてしまった原因は何か…などのご事情次第で、どのような借金の整理方法を取るのが適切かが変わってくるからです。

この方の場合、借金が増えてしまったきっかけは、次のようなものでした。(以下、この方のことを「Aさん」とお呼びすることにします。)

■お子さんの養育費が増加。それに加えて住宅・自動車ローンが家計を圧迫。

Aさんは30代後半の主婦の方です。20代のはじめに結婚され、現在はご主人と中学生の娘さんとの3人で、夫名義の自宅(住宅ローン支払中)に住んでいます。ご主人の給与は月30万円弱、Aさん自身も近くのスーパーでのパートで月3~4万円を稼いでいました。

結婚当初は、日々の買い物などにカードを使うだけで、カードの支払にも特に問題のなかったAさん一家の家計ですが、お子さんが産まれてから雲行きが怪しくなってきました。

まず、出産予定の半年ほど前から、Aさんが外に働きに行くことが難しくなり、それまでAさんがアルバイトで稼いでいた月3~4万円の収入が無くなってしまいました。加えて、出産費用や育児用品の購入、親戚からの出産のお祝いのお返しなど、出産前後に大きな支出が続きました。

Aさんは出産後半年後くらいから再び少しずつ働けるようになったのですが、育児の関係もあり、以前のようにフルタイムで働くという訳にはいかず、お子さんが保育園に入れるまでの間、収入がそれまでより少ない状態が続きました。以前と同様に働けるようになってからも、今度は保育園や幼稚園の費用がかさむようになり、家計が以前よりかなり厳しくなりました。

最初Aさんは家計の赤字を補てんするために、自分の貯金を取り崩していましたが、それもすぐ使い果たしてしまい、そのうちに手元に現金がないときなどに、1回1~2万円ずつカードキャッシングを利用して急場をしのぐことが多くなってきました。

さらに、娘さんが小学校に上がるときにもまとまった支出が必要でした。まず、娘さんが小学校の入学式に着ていく服。一生に一度のことだからと、少し無理をしてしまいました。娘さんのランドセルは夫の両親が買ってくれましたが、高級品だったため、お返しの品を送らないわけにはいきませんでした。また、学習机や体操着なども新しく買わなければなりませんでした。

そして、小学校入学後は、習い事の月謝や学校に納める給食費などの支出が増え、それまでに少しずつ借りていたカードキャッシングの返済も相まって、さらに家計が悪化しました。

また、間の悪いことに、娘さんの入学と前後して、ご主人の自動車が故障してしまいました。もう何年も乗っている自動車だったこともあり、新車に買い替えることになりました。自動車ローンの名義は夫でしたが、自動車ローンの支払が増えた分、家計が圧迫されるようになりました。
これらの支払に加えて、月々約10万円の住宅ローンの負担が重なり、だんだんと家計の赤字が増えてきました。

■夫には借金のことを相談できない理由があった

Aさんは夫に、それとなく家計が厳しいことを訴えてみましたが、お金に厳しい性格の夫は、「十分な生活費は渡してあるだろう。一体何にそんなに使っているんだ。」と言われてしまい、それ以上お金のことを話すことができませんでした。
実は以前、Aさんのご両親が事業に失敗し、夫の両親に借金の一部を肩代わりしてもらったことがありました。それ以来、Aさんは夫に対してお金のことを相談できない雰囲気になってしまっていたのです。

■日々の支出をカードでのリボ払いに変更。一時的にはうまく行ったけれど…。

困ったAさんは、現金はできるだけ使わずにカードなどの支払のため銀行口座に入れておき、日常の買い物はクレジットカードでのリボショッピングで賄うようになりました。リボ払いにしたため、月々の支払金額が減り、一時的に家計が好転したように見えました。しかし、当然ですが、リボ払いではその月にカードを利用した金額よりも月々の返済金額が少ないですから、毎月、利用代金残高はじわじわと増えていきます。カードの利用枠の余裕がなくなっていくのとあわせて、Aさんの気持ちの余裕もなくなっていきました。

■カードの利用枠がいっぱいになってしまい、複数のカードを回す「自転車操業」へ。

そのうちに、それまでメインで使っていたカードのリボショッピングの枠がいっぱいになってしまったAさんは、今度は、昔作ったままほとんど使っていなかった別のカードでリボショッピングやキャッシングを始めてしまいました。
2枚目のカードの利用枠もいっぱいになると、今度は新しいカードを申し込み、そのカードで新たな借入をして他のカードの支払に充てるようになり、各カードの引き落とし日の時間差を利用した「自転車操業」をするようになってしまいました。

しかし、「自転車操業」が始まってから2年もたたないうちに、Aさんは手持ちのカード5枚分の利用枠をすべて使い果たしてしまいました。そして、新たに申し込もうとしたカードの発行を断られたことで、それ以上の借入ができず、返済資金もないという完全な破たん状態に陥ってしまったのです。

■まずは「受任通知」で、債権者からの連絡をストップ!

ご相談のお電話で伺った内容から、このままAさんの案件を放置しておくと、数日中にもカード会社からの支払催促の電話などがご自宅にかかってくる可能性があることが判りました。そこで、まずは債務整理の「受任通知」を至急各業者に送るため、一度Aさんと直接面談させて頂くことになりました。(ちなみにAさんは東京都在住の方ではありませんでしたが、急を要すると言うことで、私のほうがAさんのご自宅からほど近い駅まで伺い、駅近くの喫茶店にて面談をさせて頂きました。)

さて、弁護士や司法書士に破産申立の手続をご依頼頂くと、依頼を受けた弁護士や司法書士はすぐに、各業者に対して「受任通知」という手紙を送ります。この「受任通知」が業者に届くと、その日から、業者はその弁護士や司法書士にしか電話をしなくなります。 つまり、「既に支払期日を過ぎてしまった、でもカード会社からの電話が自宅に来ると困る、どうしよう」という方でも、すぐに専門家に相談し、「受任通知」を出してもらえば、以後はカード会社からの電話におびえる必要はなくなるのです。

Aさんの場合も、面談後すぐに破産申立のご依頼を頂きましたので、その日のうちに私の名前で「受任通知」を発送するとともに、電話でも各業者に対して、「Aさんの債務については私が正式に債務整理の依頼を受けたので、以後、ご本人への連絡は控えてほしい」と連絡しておきました。これで、いきなり業者からAさんのご自宅に電話がかかってくるようなことはなくなりました。まずは一安心です。

■何とか夫には秘密で破産したい…そんなことできるの?

面談でお話を伺った際、Aさんからは、「破産は仕方がない、でも自分が破産することは夫には絶対に知られたくない」という強いご希望がありました。

もちろん、自分が借金で困っている、その解決手段として、最も強力な「自己破産」という手段を取ろうと思う、といった重要なことは、建前から言えば、ご主人にも今の状況を打ち明けて、ご家族の協力のもとで進めていくのが理想です。

しかし、現実問題として、Aさんのような主婦の方が、ご主人に内緒で借金を重ねてしまったというような場合、我々としても、「家庭の不和を招いてでもご主人に全てを話してください」とは言えません。専門家の仕事は、「機械的に書類を作ること」ではなく、「その方の抱えている問題を最終的に解決すること」だからです。

そこでAさんの場合も、できる限りご主人には内緒で破産手続を進める方針となりました。ただ、ご事情によっては、裁判所にどうしても提出しなくてはならない書類の中に、ご主人の協力が不可欠な書類が含まれてくる場合もあります。ですので予め、「そのような場合には、ご主人に借金のことを打ち明けてください。そのときは私もご主人への説明に協力します」とお話を差し上げ、Aさんの了解をいただきました。

■家族に内緒で破産…ネックになるのはどんなこと?

さて、家族に秘密で破産手続をしようとする場合、一番ネックになるのは、ご主人の収入関連の書類の収集です。具体的に、最低限必要となる書類は以下の通りです。

(1)ご主人の給与明細書(通常、申立前1~2か月分)
(2)ご主人の源泉徴収票(通常、直近の年度のもの)

必ずしも上記2つが準備できれば絶対に大丈夫というわけではありませんが、これらの書類が準備できるなら、ご主人に秘密で破産手続を進められる可能性が高くなります。Aさんの場合、「それは何とかします」とのお答えでした。

■裁判所から手紙は届かない?

Aさんからは、「破産ということになると、裁判所から自宅に手紙が届いたりしないでしょうか?裁判所から手紙が届くと、破産のことが家族に知られてしまうので困るのですが…」とのご相談もありました。

しかし、ご自身で破産手続をされる場合と違い、専門家に破産手続を依頼される場合は、裁判所からの書類は専門家の事務所のほうに届きますので、ご自宅に裁判所から手紙などが届くことはありません。よって、ご自宅に郵送物が届くことで同居のご家族に破産手続のことがバレてしまうということはありません、というご説明をさせて頂きました。

■夫の仕事や子供の就職に影響は…?

また、Aさんは、「夫の仕事場に電話がかかってきたりしませんか?」「自分が破産すると、子供の就職に影響はでませんか?」といったことも心配されていました。

しかし、破産手続を依頼されてから裁判所での手続が全部終了するまで、ご主人の仕事場に何らかの連絡が行くことは一切ありません。(破産手続を依頼された専門家も裁判所も、ご主人の仕事場に電話する機会はありません。)

また、お子さんの就職についても、少なくとも一般企業や一般の公務員として就職されるのであれば、影響が出ることはないでしょう。(少なくとも、私が聞いたことのある範囲で、「実際にご子弟の就職に影響が出た」とか、「実際に親族の破産歴の有無を調査している会社がある」といった話は聞いたことがありません。)

このようにご説明差し上げたところ、Aさんにもやっとご安心いただけたようでした。

■弁護士や司法書士からの連絡は?

なお、自己破産の手続を弁護士や司法書士に依頼すると、その事務所から数回(通常2~3回です)、郵便物をお送りします。これらの郵送物についても、配慮のある事務所であれば、あらかじめ「郵送物は個人名で送ってください」「郵送物は郵便局留めで送ってください」「書類は事務所に取りに行くので送らないでください」等の要望を出しておけば、それに従ってくれますのでご安心ください。

もちろん、弁護士や司法書士からの電話は、依頼者様個人の携帯電話にしかしませんので、「事務所からの電話を夫や子供が取ってしまう」ということもありません。また、「この時間帯には電話はかけないでほしい」といったご要望にも、配慮のある事務所であれば応えてくれるでしょう。
その他、事案の進め方などについては、専門家相手だからと言って変に気後れせず、色々とご希望をおっしゃって頂ければと思います。

■気になる報酬の支払いかたは…?

最初の相談のお電話の際、Aさんからは、「お支払する報酬は分割でお願いしたいのですが…」というお話を頂いていました。もちろん、我々としても、一括で報酬を頂けるとは思っていませんので、月々、Aさんの家計に無理のない金額にするため、9か月の分割払いで報酬をお支払頂くことになりました。

■自己破産手続を依頼したあとの生活は?

ここで、自己破産手続を専門家に依頼された後の生活について、Aさんの例で簡単にご説明します。

Aさんはパートで働きながら子育てをしておられましたが、自己破産手続のご依頼によって生活が変わることはありませんでした。
変わったことと言えば、毎月のカードの支払がなくなって家計が楽になったこと、カード会社からの電話がなくなったことくらいです。
毎月のカード支払の心配がなくなり、家計に若干の余裕ができたことで、その後のお電話での打ち合わせの際のAさんの声も、相談時より少し明るくなられたようでした。

ただ、破産申立の際の資料作成の関係上、家計簿だけはしっかりとつけて頂き、また公共料金等の領収証もきちんと取っておいて頂きました。また、当然ながら、新たなお借入れは絶対にしないように、また、後から裁判所に「浪費」と思われるような出費は慎んで頂くよう、お願いしました。

■報酬の分割払いが終了し、いよいよ書類作成。まずは破産申立書の下書き。

Aさんの場合、報酬を9か月の長期分割でお支払頂くことになりました。そこで最初の8か月は普通に生活して頂き、9か月目から本格的に破産申立書類作成にご協力いただきました。

まずAさんには、破産申立書の下書きをしていただきました。具体的には、弊事務所からAさんに、Aさんが破産を申し立てる予定の裁判所が定めた様式の申立用紙をお送りし、空欄を埋めて頂きました。
また、書類の下書きと並行して、Aさんの持っている預金通帳のコピーやAさんの住民票の写し、Aさんとご主人の給与明細のコピー(過去2か月分)、ご夫婦の源泉徴収票のコピー、Aさんとご主人がかけておられる保険の保険証券のコピー、ご主人名義の自動車の車検証のコピーなど、破産申立書と一緒に裁判所に提出しなくてはならない書類の収集もお願いしました。

破産申立書の下書きと提出書類の準備は、通常2週間程度でしていただいています。Aさんにも、2週間でご準備頂くようお願いしていましたが、期限の直前にお電話があり、「すみません。夫のいないときを見計らって下書きや書類の準備をしているので、少し時間がかかりそうです。」ということでしたので、1週間期限を延ばしたうえ、破産申立書の下書きと必要書類をご郵送頂きました。
他の方でも、「夫に見られないように下書きを書くのに時間がかかった」と仰る方は多いです。ご主人はじめご家族に内緒で破産申立をしようとするとき、破産申立書の下書きをする時間を作るというのは意外に大変かもしれませんが、ここは「司法書士が勝手に書く」というわけにはいかない部分ですので、ご家族に内緒での破産申立をお考えの方は、なんとか時間を作って頑張って頂ければと思います。

ちなみに、一般的に、ご依頼者の方に下書きして頂く破産申立書類には、以下のようなものがあります。参考までにご覧ください。

●「財産目録」 依頼者の方がお持ちの財産についてご記入いただきます。形式としては穴埋め式で書いて頂きますので、専門知識は不要です。
具体的には、所有不動産の有無、所有自動車の有無、かけている保険の種類や解約返戻金(生命保険などを解約した時に戻ってくるお金)の額、過去数年以内に購入したもので購入価格が20万円以上したものの有無、退職金が出る雇用形態の場合の退職金の見込額などを記入して頂きます。

●「陳述書」 最初にカードなどで借り入れを始めたきっかけ、時期や、その後どのような事情で借金が増えてしまったかという事情を書いて頂きます。「昔のことで覚えていない」という方も多いですが、ここをしっかり書いてあるかどうかで手続の成否が相当程度変わってきますので、頑張って書いてください。私たちも協力します。

●「家計全体の状況」 過去1~3か月分の家計の出入金を、項目ごとに書いて頂きます。これも穴埋め式の用紙に記入いただきますので、専門知識は不要です。収入欄にはご自身とご主人の給与などの金額、支出欄には食費、電気代、水道代、ガス代、電話代、保険に入っている場合の保険料、通勤等の交通費、医療費、衣料品や日用品代などを、項目ごとに1円単位でご記入いただきます。
ちなみに、ご依頼を頂いたときに、「これからしっかり家計簿をつけてください」とお願いするのは、この書類が書けるようにするためです。この書類の書き方が大雑把だと、やはり手続の成否に大きく影響しますので、できるだけ正確に書いて頂ければと思います。

■頂いた破産申立書などを弊事務所で検討。専門家の目で厳重にチェックします。

破産申立書の下書きと、書類の準備をAさんにお願いしてから3週間後に、弊事務所に書類が到着しました。ご主人の給与明細と源泉徴収票のコピーもきちんと入っていました。まずは安心です。
この後は、事務所で、書いて頂いた破産申立書の下書きや送っていただいた書類の内容を検討します。

当たり前のことですが、「破産申立書の下書きを書いてください」と言われて、一回で完璧な書面を作れる方はいらっしゃいません。また、破産申立書には、「初めて借金をしたきっかけは何か」「その後、何がどうなったために借金が増えていったか」「当時の収入・支出の状況はどうだったか」といった、破産申立に至る「流れ」を書いて頂く必要がありますが、人間、つらいことは思い出したくないという気持ちが働きますので、どうしてもこの部分の記載は不十分になりがちです。
そこでそのように、下書きが不十分な部分については、別途事務所からお電話差し上げて、当時のご事情などを念入りに伺い、不備の無い書面を作成していきます。

Aさんの下書きは大変よく書けていましたが、何か所か、「ここは裁判官が疑問に思うのではないかな」と思われる部分がありました。また、過去の借入れの理由について、若干客観的な資料と食い違いのある部分がありました。その他、専門家の目で気になった部分について、何回かにわたって色々とお話を伺い、破産申立をしたあと、いざ裁判官との面談に臨んだときにAさんが困ることのないよう、慎重に書面を作成していきました。

■準備完了。いよいよ破産申立です。

最後にいくつか、追加で必要となった書類のコピーを送っていただき、Aさんからご依頼を頂いてから10か月目にようやく準備が整いました。いよいよ裁判所に破産申立の書類を提出します。

裁判所に破産申立書を提出してから1週間ほどで、裁判所から、提出した書面についての追加調査の指示が来ました。Aさんの案件の場合、Aさんが頑張って書類を準備してくれたおかげもあり、追加調査の指示は1点のみ、「旦那さんの過去1年分のボーナスの金額と、それを何に使ったかを報告してください。旦那さんの預金通帳のコピーまでは求めません。」というものでした。
早速Aさんに電話して、ご主人のボーナスの金額とその使い道を書いた紙を郵送してもらい、それを弊事務所で、裁判所に提出できる形に清書した上、これを裁判所に提出しました。

■破産・免責手続の最後の山場、裁判官との面談に備えます。

破産申立書と、追加調査の結果を裁判所に提出した後の流れは、裁判所によって異なります。しかし共通するのは、その後1回もしくは2回、裁判所に足を運んでいただき、そのうち最低1回、裁判官と面談して頂くことになるということです。(この裁判官との面談のことを、「破産審尋」「免責審尋」といいます。正確には「破産審尋」と「免責審尋」は法律上別のものなのですが、ここでは話を簡単にするために、まとめて「裁判官との面談」または単に「審尋」と呼ぶことにします。)

Aさんの場合は、破産申立書等を提出してから裁判官との面談までの期間が比較的長い裁判所でした。そのため裁判官との面談は、申立をしてから3か月後の平日昼間に決まりました。

裁判官との面談日が決まった後は、弊事務所から、裁判所に提出した破産申立書類一式のコピーをAさんに郵送し、面談日までにもう一度中身を読んでおいて頂くよう、お願いしました。裁判官との面談では、提出した書類をもとに、裁判官からいろいろな質問が出るのが通常だからです。Aさんからは、「裁判官から何を聞かれるのか不安です」とのお電話を頂きましたが、裁判官からの質問には、とにかく聞かれたことに対して正直に答えればそれでよい旨をお伝えしました。

■裁判官との面談(審尋)。落ち着いて答えれば大丈夫です。

当日は、私も裁判所に同行させて頂きました。

まずは、裁判官との面談予定時刻の30分前に、裁判所のロビーでAさんと待ち合わせし、面談までの時間を使って、最後の打ち合わせをさせて頂きました。
具体的には、申立書の中で特にポイントとなる部分(裁判官からの質問が予想される部分)について再度確認し、裁判官からどういう質問がされるか、それに対してはどう答えればいいかというシミュレーションを行いました。
また、不測の質問については、落ち着いて、ご記憶の通りに正直に答えていただくよう、お願いしました。

面談予定時刻の5分前に、裁判所の担当部の部屋に移動。私から裁判所の窓口の職員に、Aさんが面談のために来たことを告げました。Aさんには、裁判所備え付けの「出席簿」のようなものに名前を書いて頂きました。
その後、Aさんと一緒に待合室に移動。当日は同じように裁判官との面談を受ける人がいますので、順番が来るのを待ちます。

そしていよいよAさんの面談の番です。面談をする部屋にはAさんしか入れませんので、私としては、あとは面談が無事に終わることを祈るばかりです。
Aさんが面談の部屋に入室して15分ほどで面談は終了。心なしか明るい表情でAさんが戻ってきました。

■面談は何事もなく終了。あとは待つだけです。

その後、裁判所のロビーでAさんからお話を伺いました。

面談の内容を伺ったところ、裁判官からは細かいことは何も聞かれず、「今回、返し切れないくらいの借金をしてしまったことについて、一番の原因は何だと思っていますか?また、反省している点はありますか?」と聞かれた後、「本件について免責許可決定(借金の返済を免除するという決定)を出します。後日裁判所から、あなたの書面を作った司法書士の事務所宛に決定書を送るので、確認してください。今後は旦那さんと協力してしっかり生活を立て直して、二度とこういうことにならないようにしてくださいね」と言われて面談が終わった、優しそうな裁判官の方でした、とのことでした。

こうして、Aさんと裁判官との面談は無事終わりました。
このように、裁判官との面談(審尋)と言っても、手続をきちんと理解した専門家の手で書類が作ってあれば、何事もなく終わる場合がほとんどです。「裁判官と話をするなんてなんだか怖い…」と思って自己破産を躊躇されている方は、ご安心頂ければと思います。

■そして1か月後、無事、免責確定。借金がなくなりました。

裁判官との面談(審尋)が終わると、Aさんにはもう何もしていただくことはありません。

そして面談の日から約1か月後、ご依頼を頂いてから14か月後に、Aさんの「免責許可決定」が確定し、Aさんの借金はすべて、返す必要がなくなりました。

その後弊事務所で、裁判所から「免責許可決定確定証明書」(簡単に言うと、裁判所が、Aさんの借金を返す必要がなくなったことを証明してくれる書類です)を取り寄せ、これを「免責許可決定書」と一緒にAさんに郵送しました。
これでAさんに関する破産手続はすべて無事終了しました。

■自己破産後のAさんの生活は?
「免責許可決定書」等の書類をお送りするのに先立ち、Aさんに最後のご挨拶のお電話を差し上げました。

結局、ご主人には、自己破産のことも借金のことも知られずに済んだとのことでした。(給与明細等は、実は毎月ご主人から受け取っていたので問題なくコピーできたそうです。)また、カードの支払で苦しんでいたときには、借金のことがご主人にバレないかと不安で、最後の方はご主人と毎日顔を合わせるのも怖いという状態だったのが、借金がなくなったこことで、ご主人と普通に接することができるようになったのが一番うれしい、とおっしゃっていました。

家計の面でも、それまで月に6~8万円をカードでの支払いに充てていたため、毎月赤字でどうしたらいいか判らなかったが、自己破産によってカード会社への債務が免責されたため支払が無くなり、逆に月数万円を貯金できるようになったそうです。この貯金はお子さんの高校進学資金にしたい、とのことでした。

今後は、数年間、カードなしでの生活となるのだけちょっと不便ですが我慢してくださいね、と話を向けた所、「いえ、もうカードは見るのも嫌なので…」と笑っておられました。
電話口でのAさんの声は、ご相談当初とはうって変って明るくなっており、口数も格段に多くなっていました。私としても、自己破産の手続をお勧めして本当に良かったと実感しました。

■まとめ

最後に、今回のAさんの事例のポイントをまとめておきます。

●ご夫婦の一方が、相手(妻・夫)に秘密で自己破産することは、不可能ではありません。
●ただし、最低限、相手(妻・夫)の給与明細書と源泉徴収票のコピーは準備してください。
●自己破産関連の裁判所からの書類は、自己破産手続を依頼した専門家の事務所に届きます。(ご自宅に届くことはありません)
●既にカードの支払ができなくなった方は、すぐ専門家に依頼すれば、カード会社からご自宅への連絡を止められます。

妊娠・出産をきっかけに、カードでの借り入れが増えて支払いができなくなってしまう方は、一般に思われるよりずっと多いです。「家計のやりくりに失敗して自己破産なんて恥ずかしい…」と思わず、手遅れになる前に、一度専門家にご相談頂ければと思います。

ふくだ総合法務事務所 代表司法書士 福田 亮


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